樹々はともだち ≪前編≫

始めてダマヌールを訪れた2001年、聖なる森でサーキット(らせん)を初めて歩いた。


ダマヌールの神殿の写真を見たとたん、訳もわからず「ここに行かなければならない」という魂の声で、それまで海外旅行に行った事も一度もないのに、ひとりでなんとか飛行機を乗り継ぎ、気がついたらイタリアのダマヌールに居る。

 

そんな初めて&ドキドキのダマヌール滞在中、聖なる森のサーキット(らせん)を訪れた。

聖なる森の入り口の近くの、小さならせん。

そのらせんを、中心に向かってゆっくりと歩いていく。


サーキットの中に入り、歩き始めると、どこかから誰かの歌声が聞こえた来た。

いままで聞いた事がないくらいに美しい歌声。

 

「ダマヌールの人たちが近くで歌っているのかな?」

「それにしても、なんて素敵な声なんだろう」

 

と、少々うっとりしながら、歩を進めていく。

ひとりではなくて、何人もの人たちが歌っているようで、いくつもの多重奏になっている。それなのに完璧なハーモニー。


「こんなにすばらしいハーモニー、いままで一度も聞いたことがない。

 いったい誰がうたっているのかしら?」

 

と、らきょろきょろ周りを見渡してみた。人が居る様子はない。


「あれ?ー変だなあ」

 

と思いつつ、中心に向って歩を進めていく。その歌声はどんどん大きくなっていく。

 

「周りに人がいないのなぜ?」

「ん?もしかして」

「え、まさか」

 

と上を向き、サーキットの中にある樹々達を見つめてみた。

すると、樹々達が優しく葉っぱをゆらしながら、この世の物とは思えないすばらしい歌を、中心に向って、みんなで奏でていたのだ。


そのあまりにすごい光景に、驚いて息が止まりそうだった。

こんな素晴らしいハーモニー、絶対に人間が歌えるような歌ではないというその何層もの声の見事な調和がもう、そのらせん中に鳴り響いていた。


そして中心に着いたとき、

 

「ようこそ。こんにちは。」

 

という声が聞こえてきた。

 

「あなたが来るのを知ってたよ。待ってたよ」

 

と言われたのだ。

 

 

≪後編につづく≫