ある種屋の物語

陸前高田市。一人の種屋が語る強い思いと熱い行動。
その情熱の源はいったい何なのか?
 
「息の跡」という映画を観てきた。
全てが破壊された荒涼とした大地にたたずむ一軒の種苗店「佐藤たね屋」
津波で自宅兼店舗が流された佐藤さんは、その跡地に自力でプレハブを建て、営業を再開した。
お客さんが来たり水やりしたり、タネ苗屋らしい淡々とした日常。
ヘタウマ、といえなくもない味のある看板に、水やりタンクに落書きされた女性らしき人の顔・・・・。
映像を撮っている弱冠23歳の監督に「種屋の仕事を見ときなさい」と苗床づくりの小屋に案内し、初心者でもわかりやすいように苗土の作り方を丁寧に説明する。
そんな映像の合間に、震災での体験やこの地の津波の歴史などをたくさん語ってくれる。
そして震災を体験をした者にしかわからないだろう、悲しみ、絶望、人間の弱さ、怒り、がひしひしと伝わってくる。
佐藤さんはまた、自らの体験を独習した英語や中国語、スペイン語でも執筆し、自費出版している。
英語のタイトルは「The Seed of Hope in the Heart」
「心の中の希望のたね」
そこにはいったい何が書かれているのか?
その一節を朗々と読み上げてくれる場面がある。
自分を奮い立たせるためにも朗読するんだと言っていたが、その声の響きはまるでシェイクスピア劇の舞台俳優のように威風堂々としている。
その声、語られるたくさんの言葉に、絶望の果てであっても立ち上がっていくことはできるんだ、と勇気づけられる思いがした。
そして、その生き様そのものが希望の種となって飛んでゆく。
しかし、佐藤さんはごく普通の人だ。
お告げがあったのでもなく、宇宙船に乗ったりもしないし、高い次元の存在とのコンタクトもしない。
ただ、何もかも津波によって失ってしまったという出来事で、スイッチが入ってしまったのかもしれない。
闇の中に現れる光とはどんなものなのか、これからどう私たちは生きるのか、この映画中に<見た>気がする。